おもてなしからひとりゴハンまで簡単レシピはがびのキッチン@オーストラリアで

塩釜の魚は、父の料理

あちこちが薄く焦げた大きな塩のかたまりが出てきたときには、ビックリしまし た。
オーブン用のトレイの中にあるそれはシーソルトらしく、精製されたものではありません。

「さあて、できてるかな」と言いながら、料理好きな友達は大きなナイフでぼこんとその塊を叩きました。ぼこんぼこんと叩いたところから塩はまるで石灰のようにひび割れ、その下からは大きな魚が見え隠れしています。
いわゆる「魚の塩釜蒸し」でした。

クリスマス前には、もうアデレイドに引っ越すことが決まっている友達は、最後のパーティに、ローストラムとこの大きなスナッパーの塩釜蒸し焼きを作ったのです。年老いた母の側にいたいという彼は、他の兄弟に比べて身軽な独身、出身地のアデレイドに帰ることも、決まってから一ヶ月でもう引越しという速さでした。

塩釜から現れた大きな魚にはハーブが沢山詰められ、とてもよい香りを放っています。2m近い彼は、その大きな手を器用に動かしながら魚を切り分けました。
「大きな魚を料理することはあまりないけれど、これだけは好きなんだ。招待した友達が息をのんで見つめるってのも面白い趣向だしね。中から何が現れるかわからない、ってのもいいよねえ」
ワイン片手にやっと座った彼は、塩のかたまりを指でぽろぽろとつきくずしながら続けます。
「これは父が作ってたんだ。大きな魚を釣ってくると、こうしてハーブを詰めて塩で包む。これだけは父の料理だったよ。母も手を出さなかったね」

アデレイドに帰って、亡くなった父親の料理を今度は彼が作るのでしょうか。
母親のことを語る彼の目と口調はとても優しく、ひとり暮らしになってしまった彼女への思いがにじみでていました。