おもてなしからひとりゴハンまで簡単レシピはがびのキッチン@オーストラリアで

キュウリに取り憑かれた夏の日々

スイスで初めて借りたアパートには、1区画4畳半ほど、花を愛でるというよ りは、野菜を作るための庭が住人たちに与えられていました。

 

野菜など作ったこともなかったわたしは興味津々、ちょうど目についたキュウリの種とプランターを買い、さっそく説明書を読みながら育てはじめたのです。
種はやがて小さな芽を出し、双葉の群れがプランターをおおいはじめ、説明書をまた読むと、なになに、1.5mの間隔をおいて芽を庭に移し植えること、と。もう少し詰めてもいいのではないかと、わたしは軽い気持ちでいくつか足してしまいました。

 

ところが、これが大きな間違いだったと気づくのには、2週間も要しませんでした。

 

キュウリの葉は太陽の光を受けてどんどんと成長し、猫のヒタイを覆ったかと思うと、さらに密度を増し、添え木を置くのを忘れたことに気づいたころにはすでに遅く、整然と並ぶ隣人の野菜たちの隣で、密集ジャングルと化していたのです。
そして花をつけ、小さな細い実をところどころに見せるようになり、いきなりの大豊作。

 

近所に配ってもまだ余りある山のようなキュウリに、今度は様々なピクルスを作らざるをえなくなりました。
毎日作り続けたマスタードピクルス、 トマトピクルス、ディルピクルスなど、貯蔵庫には10種類以上ものピクルス の1リットル瓶がなんと70本以上。
わたしはイササカげんなりしながらも、大きな葉かげに隠れて棍棒のように育ってしまった巨大キュウリを、それでもまだ毎日サラダにして、数ヶ月をすごしたのです。

 

懲り性の「嵐のようなピクルス製造」は、後々まで知人の間で語り草となりましたが、わたしはそれから二度と野菜作りに手を出すことはありませんでした。