カツオ節が「削り節」の同義語になったのは、いつごろからでしょうか。
今ではもう小さな一回分の真空パックにはいった小袋が一般的になり、カツオ節がこげ茶色の固いかたまりだということを忘れてしまったひとも多いと思います。
わたしがまだ小学校にあがる前には、そのカツオ節を削るのは祖母の役目でした。
母が食事を作るまえに、祖母はこたつの上に長方形の木の引き出しをことんと置きます。引き出しのてっぺんには大工さんの使うカンナのような刃がひいてあり、祖母はその刃にカツオ節のかたまりを押し付けてゆっくりと前後に引きます。
祖母の動作はカツオ節を削るときに限らず、とてもゆっくりしていましたから、こたつに足をいれたわたしはその動きを目で追うこともできました。そして薄い削り節がどのくらいたまったかと祖母が引き出しをそっと開けると、そこからは削りたてのカツオ節のよい香りが立ちのぼります。
わたしと妹のおねだりが始まるのを待ってから、最後にとてもゆっくりと一番大きな表面を押し削ってくれるのも毎回のことでした。引き出しをまた開けると、てっぺんに乗っているのは大きな削り節がふたひら。祖母はその薄い大きな削り節を、いつもわたしたちの手のひらにひらりと落としてくれるのでした。
口に含むと、それは香りと旨味をいっぱいに広げます。口をもぐもぐとさせながら、わたしと妹は顔を見合わせてうふふと笑い、母に見つからないように本を大きく広げて顔を隠すのでした。