升酒と口紅

升酒と口紅 垂涎の日々
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バンコクに住んでいたその女性は、柳腰に大きな切れ長の眼、ちょいと化粧をして口紅を塗っただけで、周りのひとびとをはっとさせるほど、華やかな美しいひとでした。
日本酒が大好きな彼女は、わたしと年が近いこともあって、よくバンコクの居酒屋で大酒を飲んだものです。

 

小さな皿の上に白木の升を載せ、そこに一升瓶からたっぷり酒をそそぎ、升からあふれでた酒を皿にこぼれさせるのは、昔からの居酒屋風接待です。
この升酒を「とりあえずのビール」なしで、マッコウから注文する女性を見たのは、彼女が初めてでした。

 

升酒を前にして、まず彼女がするのは、ティッシュペーパーをバッグから取り出し、やにわに綺麗に塗られた口紅をすっぱりと拭い去ってしまうことです。
「白い升に口紅ベットリついたら、オンナがすたるでしょう?」

 

次には、両手で升を持ち、そうっと一口。その場にいる誰もが、まるで彼女が飲んでいるものがその店最高の酒かと確信するほど、美味しそうに飲むのです。そのうえ、ゆっくりと食べる仕草も本当に魅力的、彼女の箸は、温かいものは温かいうちに、刺身はくったりしないうちにと、的確に皿のものをさらって進みます。

 

豪快でしかも綺麗な飲みっぷりと食べっぷりは、一緒にいるものを実に愉しくさせるものですが、おかげで、わたしは居酒屋で彼女とともに一升瓶を開けてしまうこともあり、午前サマの帰宅を二度も経験したのでした。

 

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