いさぎよく、アルデンテ

スパゲッティーを茹でる 垂涎の日々
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イタリア系のおっかさんは、背と幅が同じサイズではないかと思われるほど、コロコロと太っていました。
スイス・チューリッヒ時代の友達の母親でしたが、彼が日本滞在中にわたしの母の世話になったこともあって、それ以来とても親しくしていたのです。

わたしのイタリア料理はほとんど彼女の直伝ですが、イチバン最初に習ったのは基本中の基本、スパゲッティ・トマトソースでした。

ところがこのおっかさん、おしゃべりが3度のメシと同じくらい大好きという女性ですから、料理中もその口は手と同じように動きます。もちろん正真正銘オリジナルの北イタリア系移民です。そのせいか否か、本来「料理をしているべき手」は「口」を助けるべく見事なゼスチュアを披露することにもなります。

「スパゲッティはアルデンテっ」と言いながら、話は手打ちパスタへと移り、彼女のシリアイの達人がどのようにセモリナ種の粉を混ぜ合わせていたか、という詳細におよび、従って彼女の横のスパゲッティ鍋は忘れ去られ、味見をするとアルデンテよりちと柔らかくなってしまいます。

そして、彼女は惜しげもなくそれをざざっと捨て、またもう一度茹ではじめるのです。
そんなわけで、その時のスパゲッティはたった二人分にもかかわらず、大きな二袋全て使いきり、出来あがったのは3回の「ざざっ」の後でした。

「スパゲッティは妥協しちゃダメよ。絶対アルデンテっ。教会の鐘が鳴ろうが腹をすかした子供が泣き喚こうが、アルデンテっ。失敗したら、イサギヨク認めて即捨てる。これが基本」
いや、お見事。

 

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